<2時間構成の1時間目の授業>
遺伝の法則を遺伝子の組み合わせで考えてみよう
<導入(復習)・10分>
- 子どもたちのはやる気持ちをおさえるように、先生が言った。
「予告しておいた通り、今日はマルチブックを使って少し前に勉強した遺伝の復習をしたいと思います」
机の上には3、4人のグループに1台、ノート型コンピュータが置かれている。
「コンピュータ教室ではなく、理科室にノートパソコンを持って来ました。1人で考えるのではなく、グループで相談しながらやってほしいからです。途中でメモをしたくなったら前に紙が用意してありますから取りに来てください」
それだけ告げると、先生はさっそく遺伝子の組み合わせについての復習を始めた。
「優性の法則を遺伝子の組み合わせで考えてみましょう」
先生は黒板に「AA aa」の組み合わせを赤と黄色で色分けして書いた。そして、純系同士の組み合わせから生まれる子どもの遺伝子の組み合わせを子どもたちに質問した。
「赤いAと赤いa」
「赤いAと黄色いa」…
子どもたちは迷わずに子どもの遺伝子の組み合わせを答えていく。
「全部“まる”が現れます」
先生は、全部優性になることを確認すると、今度は「Aa Aa」の組み合わせを黒板に書いた。
「黄色いAと赤いA」
「黄色いAと赤いa」…
次々に子どもたちが答える。
「“まる”“まる”“まる”“しわ”」
子どもたちが答えていく。
「そう、3:1の割合で優性と劣性が現れるんですね。それでは、これを使って遺伝子の組み合わせを調べてみましょう」
生まれた子どもから親の遺伝子の組み合わせを調べよう
グループ追求・40分
- 先生の指示で、子どもたちはコンピュータの電源を
入れマルチブックを起ち上げた。このクラスでマルチブックを使うのは今日が初めてだ。先生は簡単にマルチブックの画面の説明をすると、これから使う教材「赤×白は何?」を開くよう指示した。
「それでは第2章を開いてください」
ここで先生は、赤と白の父と母を組み合わせると子どもが生まれること、整列機能で赤と白の数を簡単に数えることができることなどを説明した。
「それでは、生まれた子どもの色から親の遺伝子の組み合わせを調べてみてください」
子どもたちは一斉にマウスを動かし始めた。
「メモ用紙は自由に持って行ってください」
とりあえずランダムに試し始めるグループ、順番に組み合わせを試していくグループなど、取り組み方もさまざまだ。
「さっきは赤が76だったのに今度は73だ」
「同じ組み合わせでも、毎回、数が違うよ」
それでも授業の最初で、優性×劣性の場合を復習しているので、3:1に近い割合になっていることは、すぐ気がつく子どもがどのグループにもいるようだ。
「75:25(3:1)に近いと考えればいいんだね」
ところがしばらくすると、教室のあちこちで「あれ?」「んー?」といった声が聞こえてきた。どうやら、それだけでは説明できないケースを見つけたようだ。
「えーっ、なんでー?」
予想と違う結果に、頭を抱える姿が見受けられる。
100の子どものうち「赤54 白46」が出現したのを見てあるグループの男子生徒が言った。
「3:1じゃないな。でも赤が多いから、赤が優性ということかな…」
同じ組み合わせでもう一度試してみる。今度は「赤49 白51」という結果が出た。
「今度は白のほうが多い。えー、白って劣性だよな…。どういうことだろう」
「このコンピュータ、壊れているんじゃないのかな」
どこからか、そんな声も聞こえてきた。
何度も同じ組合せを繰り返し試してみるグループ。順次組み合わせをかえて試していくグループ。どのグループも、画面に頭を寄せ合って真剣に意見を交わしている。
しばらくして、どっちが多いということではなく、これは1:1なんだと気づくグループが現れ始めた。
「遺伝子は2つで1組の遺伝子なんだぞ。忘れていないか」
なかなか気づかないグループには、メモ用紙を覗き込みながら先生がアドバイスをしている。
親の遺伝子の組み合わせが、優性×劣性だけではないことがわかった子どもたち、だいぶ調べるポイントがわかってきたようだ。メモ用紙には、遺伝子の組み合わせが次々に書き込まれていった。
折りを見て先生が言った。
「ほとんどのグループがわかったようですね」
先生は特にクラス全体で答えを確認することなく、課題を終わらせた。
チャイムが鳴り、遺伝の復習の第1時が終わった。
<2時間構成の2時間目の授業>
1時間目の確認をしよう <導入・5分>
- 「前の授業でみんながまだ十分にわかっていないなあ、というところがわかりました」
そう言って先生は、1時間目の授業でポイントとなった点の確認を始めた。
「遺伝子は2つで1組です。子どもから親を見つけてみなさいとやってみると、単純に『赤は優性です。白は劣性です』と考えてしまいがちですが、実際には遺伝子はAA、Aa、aaの3つの組み合わせがあるんです」
そして、遺伝子が2つで1組であることの身近な例として、性別は父親が決めていることをXとYの遺伝子で説明した。
子どもたちの顔に、納得の表情が現れた。
「さあ、続きです。コンピュータを開けてください」
白を20、赤を60作ってみよう <グループ追求1・15分>
- 2時間目ということで、もう操作を説明する必要はない。
「第1章を開けてください」
画面が開いたところで先生は、前の時間に第2章で調べた親の遺伝子の組み合わせを確認した。
黒板には親の遺伝子「@白(aa)A白(aa)B赤(Aa)C赤(AA)」が書かれている。
「遺伝子の種類は第2章と同じですが、今度は4つの組み合わせができます。1つの組み合わせから20の子どもが生まれますから、4つ全部足して白が20(赤が60)になる組み合わせを作ってください」
さっそく画面に向かう子どもたち。とりあえず試してみると最初からぴったり白20とはならないようだ。
「白をたくさん作るには…」
「こっちの赤と組み合わせた場合は白は出ないけど、こっちの赤と組み合わせると白が出るんだ」
「同じ赤でも、強い赤と弱い赤がある」
「白どうしなら全部白で20だから、あとは白を出さないように…」
白の数を意識しながら、組み合わせをかえて、増やしたり減らしたりしているようだ。
子どもたちの画面には、全部白になる組み合わせ、全部赤になる組み合わせ、赤と白が一定の割合でまざる組み合わせが次々と作られ、発見もだんだん具体的になっていく。
「白と3番の赤を組み合わせると、白が10できるぞ」
できたグループは、白20を作ること以外にどんな場合があるかも熱心に調べている。
「赤と赤からも白ができるんだ」
「3番の赤と赤でしょ」
発見したことを情報交換している子どももいる。
先生は机間指導しながら、全部のグループができたのを確認して言った。
「白は最高いくつできますか?」
「40」
すぐに答えが返ってきた。
「このグループは40できたそうです」
先生が言うと、
「45!」という声が上がった。
このグループは、白と白を組み合わせて白を40作り、3番の赤と赤から白を5作っている。
他のグループからも次々と「45」という声が上がってきた。にわかに教室内が活気づく。
「全部のグループができたようですね。45が最高です」
そう言うと先生は、次の課題を説明した。
もっと難しい課題に挑戦しよう <課題提示・
5分>
- 「今度はかなり難しい課題をやります」

一瞬構える子どもたち。
「今までは赤と白という色だけでしたが、今度は形が入ります。色は青と黄色、形は四角と丸です」
そう言いながら先生は色と形を板書した。
「今までは赤と白から4つのパターンができましたね。今度は1つ1つに4通りあるから、全部で何通りできますか」
「16」
ちょっと不安気な答えが返ってきた。
「では、第3章を開けてください」
画面が開くやいなや、子どもたちから「うわーっ」という声が上がった。
「青をA、黄色をa、丸をB、四角をbとすると、AABbという組み合わせができますね」
先生は、遺伝子の組み合わせの一例を説明した。
「このように4つで1組になります。それでは@からOまでの遺伝子の組み合わせをチャイムが鳴るまでに見つけてください」
4つで1組の遺伝子の組み合わせを見つけよう
<グループ追求2・25分>
- さあ、何から手をつけよう、一瞬そんな雰囲気が伝わった。しかし、すぐに活発な議論が始まった。子どもたちの表情は真剣だ。
「青い四角が現れたということは…」
1つの結果から、遺伝子の組み合わせを議論するグループ。
「全部黄色になるのはaaの組み合わせだけだから…」
色は黄色が劣性ということを見つけて、考えやすい組み合わせから追求するグループ。
1時間目の授業より、どのグループも理論的に思考をめぐらしているようだ。
しばらくすると1つのグループが全部の遺伝子の組み合わせを見つけてしまった。
「これ、何でわかった?」
できたグループに先生が尋ねた。先生は子どもたちの説明を、何度もうなずきながら聞いている。
しばらくすると、他のグループからも「できた」という声が上がった。
残り時間も少なくなってきた。そこで先生は、できたグループの子どもたちに言った。
「出張教師になってくれ」
さっそくできたグループの子どもたちは、まだできていないグループへと散った。
恥ずかしそうに女子グループへと出向く男の子。
「青が優性で、黄色が劣性だから、全部黄色になるのはaaでしょう…」
男の子は、自分がどのように考えたのかを懸命に説明している。女の子たちもうなずきながら男の子の説明を聞いている。
「チャイムが鳴りましたので、終わりにしましょう」
結局最後まで、先生は答え合わせやまとめをしなかった。それは各々の生徒の思考のプロセスを大切にしたかったからだ。
子どもたちは2時間頭をフル回転させたようだった。
もし1時間目の授業の最初の場面で、Aa×aaの組み合わせで1:1になることを復習していたら、生徒は悩まずにすんなりと先に進んでしまったのだろうと思います。しかしそこで悩ませたことが、課題に対して主体的に取り組ませることになりました。また、劣性の組み合わせに注目させる発問や課題設定が、生徒が自分の力で思考を再構築するのにプラスに働いていました。授業の随所に「思考の過程の共有化」という、先生が取り組まれているテーマへの熱い思いが感じられました。
授業を終えて
植松浩二郎教諭へのインタビュー
先生が理科の授業を通して取り組まれているテーマは「思考の過程の共有化」。教えるのではなく、いかに生徒を悩ませ、思考の過程を習得させるか。先生の授業には、常に生徒をアクティブにする「ネタ」と「しかけ」が仕組まれている。
Q
情報を与えなかったことが、みごと生徒を悩ませ、考えさせる結果となりましたね。
A
こちらからすぐに教えてしまうと、生徒は「ふーん」で終わってしまいます。ある程度わかったつもりになっている生徒を、いったん「あれ?あれ?」と悩ませておくと、もう一度自分で考えて「あーそうか!」になる。一度悩んだ後に「あーそうか!」に変わることで、思考の再構築ができるんです。一度悩ませることは必要ですね。
Q
グループ学習にしたねらいはどんなところにありますか。
A
他人の発表を聞くことでは、結果の同一化や追体験までは可能ですが、グループ学習ではグループ内で意見や考えを出し合い練り上げていくことが可能になります。ですから、あえてノートパソコンを理科室に持ち込んだのは、3〜4人が適当な距離で作業ができる机があって、全員が画面を見るために必然的に頭を寄せ合う格好になり、メンバーの「あれっ?」といった呟きを聞き取ることができるからです。2人だと主導権が明確になりますが、3人の場合、強い生徒が1人いても1:2で均衡が保て、緊張関係があっていいんです。
Q
生徒に配付したメモ用紙にはどんなねらいがあったのですか。
A
1つには「思考のプロセスを残す」ということ、もう1つには「グループ化」というねらいがあります。ノートを使うと生徒はきちんと書こうとするため、内容を整理し不要な箇所を消してしまい、せっかくの思考のプロセスが見えなくなってしまいます。その点、メモ用紙だと生徒はいちいち消したりしないので、思考のプロセスや呟きが見えるんです。
それに、大きな紙を使うと友だちのメモが見やすくなります。それを見て他人の思考のプロセスを追従したり、理解したり、疑問を持ったり、それをきっかけにあれこれ言い合うグループができます。グループ内で思考のきっかけを見つけ出したり組み立てたりすることができるんです。

(先生からひと言)
復習の場面では、あえて優性と劣性の現れ方がおよそ1:1になる「Aa×aa」の組み合わせを取り上げませんでした。情報を制限することで、優性と劣性が3:1になるということが生徒の意識に強く残り、ここでのシミュレーションで生徒の思考を活発にすることができると考えたからです。 |
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(先生からひと言)
遺伝の場合、劣性の形質は劣性の純系になります。したがって、実際の生まれた数の結果から親の遺伝子の組み合わせを予想するときは、劣性の場合を注目した方がわかりやすくなります。考えやすいところから入るというのも1つの有効な思考パターンなので、こうしたことを意識して課題を設定しました。 |
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(先生からひと言)
第3章はこれまでの応用でできますが、学習内容としては中学校の範囲を出ているので、残りの時間で自由に試すだけで十分と考えていました。しかし、実際にやってみると、6グループ中4グループまでが、全部の親の遺伝子の組み合わせを見つけることができました。 |
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(解説)
この復習で、子どもたちは遺伝の法則について理解しているつもりになっていたようです。しかし、ここでは「Aa×aa」の組み合わせを確認していません。この「しかけ」が実際にシミュレーションする段階で、生徒の思考を一度混乱させ、結果として学習を深めることにつながっていきます。 |
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(解説)
第2章では、1組のペアから1回に100の子どもを表示します。個々の子どもが発生するときに、遺伝の規則にしたがって確率で計算し、子どもの遺伝子(=色)を決めます。したがって実験のたびにバラツキが出ます。遺伝子は、父、母とも@白(aa)A白(aa)B赤(Aa)C赤(AA)に設定されており、その中から自由に選んで組み合わせることができます。 |
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(解説)
ランダムに試行している段階ではメモを取る生徒はいませんでしたが、順番に組み合わせをかえて試行するようになると結果の記録を取り始め、最後には遺伝子の組み合わせがまとめられていきました。生徒の思考のプロセスがメモ用紙の上にはっきりと残されることになり、先生が各グループの思考プロセスを把握する上でも有効でした。 |
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(解説)
この授業では最後まで答え合わせやまとめはおこなわれず、各グループへの個別指導中心に進められました。生徒の思考プロセスや授業の流れ、雰囲気といったことが大事にされていました。 |
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(解説)
劣性(白)に注目させて課題に取り組ませていたため、「白の最高はいくつ」という先生の確認の発問にも、すぐに子どもたちから答えが返ってきました。
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(解説)
第3章では、色(A系列)と形(B系列)の独立した2つの遺伝形質を組み合わせてシミュレーションします。1組のペアから1回に16の子どもを表示します。子どもの色、形は遺伝の規則通りぴったりの数になります。 |
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