Multi Book授業実践レポート

教室にマルチブックがやってきた

福岡県福岡市立長尾小学校福岡県福岡市立長尾小学校

全校児童720名。各学年3〜4学級の中規模校。平成8年度にコンピュータ教室が新しく整備され、Windows95が動作するコンピュータが23台。ネットワーク、カラープリンタ、デジタルカメラなど周辺機器有。最近では、歴史の学習の一環として、飛鳥小(奈良市)など4地点間を結んでのテレビ会議システムを利用した授業をおこなっている。
〈インターネットホームページ〉
http://www.sphere.ad.jp/f-nagaos/


「小学校5年生学活」

〜「先生から教えない」授業が、子どもの自ら考える力を育てる
 コンピュータで自由に命令を組み立て、プログラミングの考え方を学ぶ〜


◆実践日      1998年6月24日(水)

◆学級の人数   34名(男19人、女15人)


利用したソフト: マルチブック 小学校5年[学活]
          『カエルをうごかそう』

「カエルをうごかそう」   コンピュータに命令を伝える作業を通して、プログラミングの考え方を学ぶソフト。あらかじめ用意されている簡単な命令を組み合わせることで、画面上のカエルを自在に操ることができる。



本時の位置づけ
今回は、創意の時間を利用して全学年で取り組んでいるコンピュータに慣れ親しむ授業の1時間です。プログラミングという作業は、子どもたちにとって楽しく学べ、また筋道を通した考え方が身につきます。

本時の目標
本時は、子どもたちの意欲を高めるために最近の話題から入りました。プログラムに対して興味を持つことも大切ですが、子どもたちが互いにプログラムを比較し合い、よりよいプログラムを作れることが目標です。

コンピュータ活用の目的・意図
コンピュータが介入することで、通常の授業ではあまり経験しない、相手に自分の考えや思いを正しく伝えるという作業を経験します。つまり、「自分の右側はコンピュータにとっての右側」ではないのです。子どもの中で、「相手を思いやる心・相手の立場になって考える力」が育つきっかけになればと思います。



画面のカエルを動かしてみよう   <導 入・5分>

「今日はプログラムを勉強します」
 子どもたちを前のほうに集め、先生が言った。
「あと5、6年もするとゲームソフトを作る仕事をする人がいるかもしれませんね。してみたい人?」
 何人かの子どもが「はい、はい」と元気よく手をあげた。
 ここで先生は、1億円という年俸でゲームソフト会社に就職した高校生がいることや、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長が、1日に2000万円ものお金を使えることなどを話して聞かせた。
 子どもたちは、身を乗り出すようにして聞いている。
「みなさんもそんなふうになれるように、今日の勉強を頑張ってください」
「はいっ!!」
 とても元気な返事が返ってきた。
不死身のカエル

「今日の課題は『カエルをうごかそう』です」

 授業風景1ホワイトボードに模造紙を貼り、先生が言った。
「ここに石の島があります。カエルに命令して石の上を動かします」
 そう言って「飛べ、飛べ」とジェスチャーを交えてみせた。子どもたちから大きな笑いが起こる。
「うまく命令して宝物を取りに行きますよ。ヘビがいるところに行くと食べられてしまいます」
 子どもたちは、「なるほど」とうなずきながら聞いている。
「水に落ちると溺れてしまいますが、何度落ちても大丈夫です」
「不死身なんだ」
「わざと落としてみよう」
 口々に冗談を言い笑い合う子どもたち。子どもたちは不死身なカエルに興味津々だ。
「それでは席にもどってください」


思いどおりにカエルを動かしてみよう   <個人追求1・10分>

「この画面になったらちょっと待っていてくださいね」
 大きなモニターに画面を映し出して先生が言った。授業風景2
「もう、飛んでるよ」
 待ちきれずに、さっそくカエルを動かしている子どもがいた。
「ここに『めいれい』があります。ボタンを押してみてください」
「はい!」
 先生の指示1つ1つに、子どもたちは元気よく答えている。
「命令が5つあります。読んでみましょう」
「小ジャンプ、大ジャンプ、右を向く、左を向く、あるく」
 大きな声で一斉に子どもたちが読み上げた。
「それでは、この命令を使って宝のところまで進んでみてください」
うまく飛べるかな
「あっ、おもしろい!」
「かわいい〜」
「カエルがおぼれたあ〜」
 すぐに教室のあちこちから笑いと歓声が起こった。
「あっ、落ちた」
「歩いた!」
「大ジャ〜ンプ!!」
 子どもたちは命令を自由に試してみては、歓声を上げている。
「あっ、まちがえた!」
「そうか、大ジャンプでここに行けばいいのか」子どもたちは、自由に試すことでさまざまな発見をします。子どもたちのつぶやきや疑問の中に、授業で生かせる気づきや発見があるので、机間指導ではそういった子どもたちの反応を見落とさないように気をつけています。
「一発でここまで行けるかな」
「やった〜!」
 教室中に子どもたちの声と効果音が響きわたっている。


気づいたことを発表しよう   <集団追求・10分>

「それでは、前のほうに集合」
 先生から声がかかった。
「やってみて、何か気づいたことなかったかな」
「大きい石に飛び移るときは、大ジャンプをして必ず歩かなくてはいけない」
「小さい石は小ジャンプで飛べて、大きい石は大ジャンプで飛べる」
「小さい石は大ジャンプで1つとばせると思ったら、手前で落ちた」
 次々と子どもたちが発表する。聞いている子どもも「そうだ、そうだ」とうなずいている。
「点で数えると、大ジャンプは1.5飛ぶことがわかりました」
 授業風景3男の子が発表すると、先生は、模造紙の図を指しながら全員に確認した。
「この点に注目したのかな。点と点の間を1とすると、小ジャンプは?」
「1」
「大ジャンプは?」
「1.5」
「じゃあ、大きい石では、どうして歩くの?」と、先生。
「あるくは、0.5だけ進む」
 男の子が答えると、子どもたちから「賛成!」という声が上がった。ここで先生は次の課題の説明を始めた。
「さっきは1つずつ命令をしました。今度は、命令を1回しても進んでくれません」
 何だろうという表情の子どもたち。先生が続ける。
「頭の中でカエルの動きを考えて、先に命令をいくつか書いておくんですね。最後にスタートボタンを押して、命令したとおりにカエルを動かします」すべての命令を組み立ててから実行するという考え方は、日常であまり経験することがなくコンピュータ特有のものです。単にプログラミングの学習というだけでなく、論理的に思考を組み立てる学習にもなります。
 子どもたちから「ほ〜」といった声がもれる。
「これがさっきから言っているプログラムです」


命令を組み立ててみよう    <個人追求2・10分>

 子どもたちの画面には、先ほどよりやや複雑な図が表示されている。
「先生、間違えた場合どうするの?」
「いろいろ考えてやってみてください」何でも教師が教えるということはしません。できるだけ子どもに自由にやらせてみるようにしています。教師が説明し過ぎないほうが、子どもが自分で考えるようになるからです。
 先生の言葉に、あげかけた手をおろして、もう一度画面に向かう子どももいた。
 「大ジャンプ」「あるく」「右を向く」…子どもたちの「めいれい書」に次々と命令が書き加えられていった。
 男の子が画面を指してつぶやいている。授業風景4
「小ジャンプのあとは右を向いて、大ジャンプして…」
 カエルに命令をするには、カエルの立場に立って方向を考えなければいけないから大変だ。
「あ〜っ、おしい!失敗しちゃった」
 子どもたちは、自分が書いたプログラムを実行してみては、その結果に一喜一憂している。
「すごいよ、これ。最高!」
 思わず感激して叫ぶ子どももいた。しばらくして先生から声がかかった。
「宝物までたどりつけた人は、いま配った紙にどういう命令をしたのかを順に書いてください」


プログラムで大事なことを考えよう   <まとめ・10分>

 折りをみて先生は、再び子どもたちを前のほうに集めた。
授業風景5「プログラムをするときに大事なことを考えてほしいと思います」
 ホワイトボードには、子どもたちが作ったプログラムが2つ、並べて貼られている。
「これを見て、何か気がついた人?」
「6番までが同じやり方です」
「左のプログラムのほうが命令が1つ少ない」
 みな「確かにそうだ」とつぶやいている。
「でも、どっちもあっているよね」と、先生。
「つけ加えることがある」と、女の子。
「同時に動かすと、左のプログラムのほうが早く終わります」
 先生は子どもたちの発見を、とてもうれしそうに聞いている。
「そうです。プログラムで大事なことの一つは、命令を少なくすることなんです」
 そう言って先生は、ゲームソフトを例にプログラムが長くなれば長くなるほど、それだけ動きが遅くなることなど、どんな問題があるかを話して聞かせた。
もっと工夫してみよう
「ここにおもしろいプログラムがあります」
 先生は「くりかえす」という命令を使ったプログラムの例をホワイトボードに貼って説明した。
「あー、なるほど」
 プログラムを見つめる子どもたちから、声が上がった。
「あと少し時間があるので、いろいろ発見して、さっき作ったプログラムより短いプログラムを作ってみてください」
 さっそく挑戦する子どもたち。
「14回でできた!」
 子どもの歓声とともに終了のチャイムが鳴った。

 カエルに命令する。命令した通りにカエルが動く。子どもたちにとっては初めて味わう感動体験のようでした。子どもが考えながら自由に試したこと、何度でもやり直しながら気づいたことを引き出しながら授業が進んでいきました。コンピュータのプログラムを題材にした学習というと、特定のプログラミングの仕方を覚えることを想像しがちですが、もっと基本にある命令を組み立てる考え方を学習の中心において、子どもが自ら考える力を伸ばすことを大切にした授業でした。


授業を終えて

村橋正実教諭
村橋正実教諭へのインタビュー

 同校におけるコンピュータ活用の中心人物。情報教育にかける熱意の高さは、普段の授業からもうかがうことができる。「コンピュー夕は子どもの学習の可能性を広げる一つの道具ですが、ー方で、最近希薄になりがちな人と人との気持ちをつなぐ有効な手段にもなりうるはずです」子どもを育む上で一番大切にしたい思いを主眼において、コンピュ一夕を活用している。


今日の授業で、特に先生が注意された点がありましたら教えてください。

カエルが宝物を取りに行くには、どのように命令すればよいかをまず、子どもたちに説明しましたが、「めいれい書」の中にある細かい機能の説明などはあえてしませんでした。子どもたちにとって、試行錯誤しながら使い方を学んでいくことも大切な学習につながると考えたからです。


次回は、どのような工夫をされる予定ですか。

プログラムに取り組む前に、実際に子どもを前に出させて、命令した内容に応じて動作させてみようと思います。そうすると実体験が伴ってプログラムの考え方をスムーズに導入できるのではないかと思います。子どもに向かい合って、右を向くように命令しても、その子どもの側から右を考えなければなりません。命令される側に立ってその意図を考える必要があることを、より理解させられるのではないかと思います。


授業の中で、どのようにコンピュータを生かしていこうとお考えですか。

コンピュータそのものに頼りきっては授業は成り立ちません。コンピュータを使うことで、子どもたちにどのような発見を期待するのか、あるいは子どもたちの学びの幅を広げるために、コンピュータ以外のどのような素材を用意すべきなのか、いろいろな角度から授業設計を考えています。コンピュータが生かせる場面でこそコンピュータを使っていく、そのような使い方が理想ではないでしょうか。


(先生からひと言)
子どもたちは、自由に試すことでさまざまな発見をします。子どもたちのつぶやきや疑問の中に、授業で生かせる気づきや発見があるので、机間指導ではそういった子どもたちの反応を見落とさないように気をつけています。
  (先生からひと言)
何でも教師が教えるということはしません。できるだけ子どもに自由にやらせてみるようにしています。教師が説明し過ぎないほうが、子どもが自分で考えるようになるからです。
     
(解説)
子どもたちにとって身近な話題で興味をひきつけることで、今日の学習への意欲が高まりました。「授業の中でパソコンを使うんです。パソコンで授業をするのではありません」という先生の言葉どおり、いかに子どもたちを自然に自分から学ぶよう導くかが重要と思います。
  (解説)
すべての命令を組み立ててから実行するという考え方は、日常であまり経験することがなくコンピュータ特有のものです。単にプログラミングの学習というだけでなく、論理的に思考を組み立てる学習にもなります。
     
(解説)
「めいれい書」には、「くり返しはじめ」「くり返しおわり」という命令がつけ加えられており、これを使えば同じ命令を何回も書かなくてよいことになります。また、宝物にたどりつくルートも1つではありません。子どもによっていろいろな命令書をつくることができます。
   
     
(子どもたちの声)

●命令を箱みたいなところに入れて、プログラムが書けたのでよかった。
●カエルをジャンプさせたり、いろいろプログラムが書けたことがうれしかった。
●カエルが水に落ちたのがかわいかった。

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