Multi Book授業実践レポート

教室にマルチブックがやってきた


兵庫県三田市立広野小学校

児童数約480人、16クラスからなる中規模校。コンピュータは昨年の11月ごろ導入。子ども用にノートパソコンが20台、先生用に1台が設置されている。また、先生用のパソコンにはビデオプロジェクターが接続されている。


「小学校6年生算数」

〜2本の如意棒の関係をさぐる 黒と黄、黒と緑、

黒と青、黒と赤のそれぞれの棒の関係を見つけだせるか〜



使用した教材: マルチブック 小学校6年生算数・比例、反比例『5本のにょいぼう』 <1997年取材>

早くも興奮気味の子どもたち

授業は午後1時50分からということであったが、それ以前に子どもたちはパソコン教室に集まってくる。さっさと自分の席につくと、パソコンの電源を入れ始めた。このクラスは2人で1台のノート型パソコンだ。
子どもたちのやる気を見てとったのか、先生は、
「まだ10分前やけど、始めてもかまへんか?」
「ええで」
「今からすぐ始めれば」
ということで、すぐに授業開始となった。昨日、練習のためにパソコンを触ったということだが、今日がパソコンを使った初めての授業だ。子どもたちの期待もだいぶ高まっているのだろう。

2本の棒には、どんな関係があるか

先生はまず、課題が書かれた紙を黒板に張り出した。そして、ソフトを開くと、画面には黄色と黒の2本の棒が表示された。この2本の棒の関係を調べる、というのが本日の課題である。
「ここに、2本の如意棒がありますね」
先生用のパソコン画面は大型スクリーンを通して、みんなが見られるようになっている。
「如意棒って伸びる奴やろ」
すかさず、子どもが叫んだ。
「そう、ええとこつきますねえ。如意棒というぐらいだから、伸びるんですよね」
「縮んだりもするの?」
「そう縮んだりもするな。それで、この2本の棒の関係を調べていこう、というのを今からやります。とりあえず、第1章だけを触わりながら、わかったことをノートに書いていきましょう。では、はじめて」

早くも数表を書き始めた

ドラッグの説明など全くなかったが、子どもたちは棒の端を器用にドラッグして動かし始めた。一定の関係にしたがって、棒が動くたびに子どもたちは大喜びだ。とはいえ、作業の仕方はそれぞれである。
ゆっくりと慎重に片方の棒を動かしていく子どももいれば、ひょいひょいと勢いよく棒を動かす子どももいる。とりあえず、少し動かして、画面をじっとながめて2人で目を見合わせ考えている子どももいる。先生からの説明もないのに、黄色の棒を赤色青色の棒に変えて試している子どももいる。特に、反比例の関係にある赤色の棒は、端にいくほど動きが速くなるため、その棒の動き自体をおもしろがっているようだ。
このように、人それぞれではあるが、まだ動かして喜んでいるだけでメモすることはあとの話だな、などと思っているところへ
「こっちが5のとき、こっちは15でしょ」
という声が聞こえてきた。思わず近付いて見ると、すでに数表らしきもの(左図)を書き始めているではないか。そう思って見てまわると、他にもきちんと数表を書いている子どもがいた。「黄色と黒をたすと20になる」と、言葉で書き表している子どももいる。早くも、棒の伸び縮みだけでなく、数量に着目しているのだ。一方で、
「先生何を求めたらいいん?」
と、課題をまだ理解していない子どももいた。操作がよくわかっていない子どももいるようだ。
「黄色と黒の2つの棒を動かしてみたらどんな動き方をするか、気付いたことを自分の言葉でまとめていけばいいんや」
と、先生は個々に対応しながら教室の中をまわっていく。とにかく、わいわいガヤガヤ賑やかに作業が進んでいく。

デモをしながらの発表

作業に入って10分もしないうちに、先生からストップの声がかかる。それまで、わいわいガヤガヤしていたクラスがすっと静かになった。
「第1章を開いて、どんなことに気付きましたか?」
と言って、ある生徒を指名する。
「規則性があって、増えたら増えて、減ったら減った」
いきなり、すごい言葉が出たものだ。みんなも感心するというより、ポカンとしている。先生も「規則性」という難しい言葉が最初に出てきたことで、周りが「もう何も言えない」という雰囲気になってしまったと感じたようだ。黒板に書き取りながら、
「規則性ね。すばらしい言葉が出ましたね。ほかには? 今みたいに、3文字熟語の難しいこと言わんでいいから、見て思ったことを言ってな」
とフォローすると、やっと次のような意見が出てきた。
「縮んだり、伸びたりする」
「黒を10にすると、黄色が10になって…」
「ん? じゃあ、前に来てそれを実際にやってみて」
その子どもは前に出てきて、先生用パソコンの席にすわる。周りからはひやかしの声がかかるが、その子どもはめげずに、
「黒を10まであげると、黄色はさっきまで20だったのが10に縮んで、黒を20まであげると、黄色は10から0になる」
と、デモをしながら発表を続けた。大型スクリーンにはその様子が映し出されている。そして、
「黒と黄色はまったく正反対の動きをしている、と思った」
とまとめた。みんなも納得した様子だ。
「他に何か気付いたことありませんか」
次の子どもがまた、前に出て来て実際にやってみる。
「これやったら、黄色が10で黒が10やから、足したら20になる。そして、黄色が15で黒が5でも足したら20になる。黄色が20やったら黒が0やから、やっぱり足したら20や」
「ほんまやなあ」
と先生は、発表されたことを板書する。
先生は、さきほど出てきた「規則性」という言葉を取り上げて、
「とりあえず、黒+黄=20となってることを自分のパソコンで確認してみてな。確認できたら、他の色の棒にはどんな規則性があるかを考えてみよう。今度は第2章も開いていいよ」
と指示した。

直線は引けんの?

第2章は、グラフ表示となっている。で、さっそく多くの子どもが第2章のグラフで考え始める。しかし、何人かは第1章のままだ。どうも、ストップされる前に調べていたことの続きをしているらしい。
第2章を開いている子どもたちは、何の説明もなかったが「点を打つ」ボタンをクリックして、グラフ上に点を打つ子どもも出てきた。中には、点を打つことに熱中している子どももいる。と、ある子どもから
「先生、これ直線は引けんの?」
と声がかかる。しかし、このソフトは、グラフ作成ソフトではなく、2本の棒の関係を見つけ出すソフトのため、2本の棒の交点しか打てないようになっている。
「このソフトでは打てんな」
と先生に言われ、少々がっかりした様子だ。と、そこへ隣の子どもから
「点をつなげていけばいいんや」と声がかかった。見ると、点をいっぱい打って直線らしきものを描いているではないか。課題を解決するための作業からは少し外れるかもしれないが、このことによって、線は点の集まりであるということを少しでもつかみとったとしたらすばらしい発見だ。

チームに分かれて徹底分析!

その後も、グラフが上がっているのか、下がっているのかに注目している子ども。
第2章でいろいろ動かして、また第1章に戻って、そちらでも確認している子ども。
反比例のグラフを見て苦悩している子ども。
ここまできても、ノートに何もメモしていない子ども。
と進行状況もさまざまだ。
と、突然先生から指示が入った。クラスを3つのチームに分けて、それぞれ緑色青色赤色の棒について、徹底的に調べるように、ということだ。
あとから先生に尋ねてみたところ、「それぞれやっているんだけれども、やったり、やったり、なんかどっちつかずでやってる子どもがいたり、グラフを作ることだけに専念していたりで、目的意識がどうも散漫になっていたようなので、あらためて集中させよう思った」とのこと。
実際、一瞬それぞれに集中力が高まったような気もする。が、それでも、わいわいガヤガヤはそれほど変わりなかった。
先生は次の策として、
「何人かの子が、調べたことを表にまとめています。表にまとめると、わかることもありますね」
と、新たなるヒントを与えると、どこからか「3倍だ!」という声が上がった。

黒が5のとき、は9か8?

残り15分となったところで、チームごとの発表に入った。まずは、チーム。
−黒=3です」
いきなり数式が出てきた。前に出て、画面を操作しながら説明させる。また、
「グラフは直線になりそう」
という意見も出てくる。まあ、何とか、と黒の関係はとらえられたのかなあ、と思っていると、
「黒が5のとき、は9か8で…」
と、あいまいな発言が出た。先生は、一瞬困惑した顔をしたが、
「はい、みんな棒の色を緑色にして」
と指示した。みんなで確認してみよう、ということだ。結局「黒が5のとき、は8」ということをみんなで確認する。本人も納得した様子だ。ついでに、黒が10のときは13、黒が15のときは18、ということを確認する。
次はチーム。
÷黒は必ず3になる」
なかなか鋭い。続いて、
「3の倍数になる」
どういうことかがわかりにくいので、先生のパソコンで説明させる。と、第2章のグラフに(,黒)=(3,1)(6,2)(9,3)と点を打って、
「マス目で見たら、3の倍数やった」
と自信満々で答えた。先生が、
「何が3の倍数なの?」と追求すると、
が3の倍数や」
と明確になった。みんなにも、第1章の画面で、まぎれもなく「の棒の長さが黒の棒の長さの3倍」であることを確認させる。

最後のまとめ

で、残りのと黒の関係だ。
「黒×=24」
という関係が出る。やはり、最初は数式だ。
が伸びると黒が縮む」
という表現も出る。しかし、最後に
が5のとき黒も5で、が10のとき黒が3で、が11のときも黒が3で、15のときに黒が2になって…」
と、少しわかりにくい答えが出てきた。ほかのみんなも難しい顔をしている。
「ちょ、ちょっと待って。画面で確認してみようか」
と、先生は自分でパソコンを操作しながら確認の作業に入った。
が5のとき、黒は?」
「5」
どうも、この子どもは如意棒のどの部分で数字を読み取るかがあいまいだったようだ。棒の先の丸い部分の真ん中で数値を読み取ればよいのだが、この子どもは丸い部分の端で読むのか真ん中で読むのかが判断つかなかったようだ。これについては、授業の最初に言っておくべきことであったのかもしれない。
先生は画面でそのことを説明して、最後のまとめに入る。子どもたちの発表は先生が板書していたので、それを指しながら、
「このように、それぞれの関係がまとめられました。ここでを出してこようと思ったら、黒と3とをどうしたらいいですか?」
「足したらええ」
「そう、足したらええんやな。そしたら、を出してこようと思ったら、黒と3をどないしたらいいですか?」
「……」 返事がない。
「黒が1のときが3やから、1に…」
「かける3」
「そうやね。だから =黒×3やね。最後に=24÷黒となるね。次の時間からは、のような関係で”何倍ずつ増えているか”というのをやっていきたいと思います」
ということで、最後はちょっと足早となってしまったが、本日の授業はこれでおしまいとなった。

授業中ちょこちょこと動き回っている子どももいたが、全体的にはパソコンの画面に集中しているように感じられた。今日やった中身について、全員がホントに理解したのかどうかはわからない。中にはみんなが片付けている間も、グラフの画面でいくつもいくつもの点を打ち続け、とうとう直線を完成させて喜んでいる子どももいたが、みんなホントに楽しそうにパソコンを操作して作業を進めていた。もちろん、授業の中身がわかる方がいいのだろうが、授業そのものが楽しいということは、それだけでも価値のあることではないだろうか。直線を完成させた子どもの満足そうな顔を見ていると、そう思うのであった。

授業を終えて


西畑 一之教諭へのインタビュー

教師暦15年。初めてパソコンを手にしたのは10数年前に購入したFM−8。当時は、ベーシックでプログラムも組もうとしていたが、相次ぐ新技術の登場でしばらく挫折。その後ブランクが長く、2年ほど前に再びパソコンを購入したそうだ。パソコンを使っての授業は今回が初めて。普段から、できない子どもができるまで待っていられるような授業を目指している。

Q1 今日の授業の出来はいかがでしたか。

A1 パソコンを使った初めての授業にしては、普段あまり発言しない子どもも発表しましたし、何とかうまくいったのではないかと思います。が、今日は見学していただいているということで、ちゃんとまとめようとして、ちょっと強引に進めてしまったかな、という点もあります。そういった意味では及第点とはいえないかもしれませんが、あれだけ子どもたちが楽しんでいたのだから、90点ぐらいはいってるんじゃないでしょうか。今日のところは、どこまで内容を理解してくれたのかわかりませんが、自分たちで描いたあのグラフは、頭の中に残ってるでしょうしね。

Q2 ふだん発言しない子も発表したのですか。

A2 普段から、自分が思ったことは言いなさいよ、と言っているし、最近は、まだできてない人は手を挙げなさい、ということで、全員ができたら次に進もうとしているんです。そうしたら、今日はいつもしゃべらない子どももしゃべりましたね。教室の雰囲気が、待ってもらえる、というか、待ってもらえる分、さぼらずに頑張ろう、という気持ちになってきているんだと思います。

Q3 途中で3チームに分けましたが…。

A3 どれか1つの色の棒について、集中させるということは、それ以外の色については関心をなくしてしまう、ということでもあるし、他の色との関係がつかめなくなる可能性もありますが、どうも目的意識が散漫になっていたようなので、あらためて集中させよう思ったんです。実際には、自分のチームの色が終わったら、他の色もやってましたけどね。ただ、今日は機械的に3つのチームを分けてしまったけど、子どもの希望を聞いてやらせてもよかったな、と思います。

Q4 授業でパソコンを使うことについて、どうお考えですか。

A4 子どもたちは、教科書や本などを読んでいても、すぐ耐えられなくなって思考が途切れてしまいがちですが、パソコンだと自分でやってみたいという気になるようですね。昨日ちょっと練習をやったのですが、全然あきないんですよ。クリックしたり、ドラッグすることがなんかゲーム感覚なんでしょうね。ただ、パソコンを使うことでどんな力をつけるのか、というのをきちんと僕が持っていないといけないと思います。そうでないと時間の無駄遣いですから。それに、それぞれの子どもが、それぞれ自分のペースでできることが一番いいですね。

Q5 今後は、パソコンをどのように活用したいですか。

A5 パソコンが何かを教えるということは、全く考えていませんね。教えるというよりも、子どもから何かを引き出したいし、その子どもの意見をとにかく尊重してあげたい。そして、子どもが子どもの手によって勉強したよ、と思わせるような授業をしていきたいですね。もちろん、そういう形をとりながらも、教師は絶対これだけは押さえておかなければ、という部分を持たないといけませんけどね。今日は、ちょっと強引にまとめようとして、最後になんか押し付けの部分が出てしまいましたが。

Q6 では、見学させてもらっていなかったら、どうなっていたでしょうか。

A6 まとめはせず、4つの関係がわかったところで、今日は終わりですね。で、次の時間に教科書を開きながら「同じ関係のものはどれですか。青ですか、黄色ですか、緑ですか」って。何倍かになってるのはこれだっていうのを見つけさせる。そして、「教科書ではそれを“比例”と説明している。だから、同じように青が比例という関係なんや」とやるでしょうね。そうすれば、教科書とパソコンの2つの情報が、何とか自分の中に入ってくるから、よくわからない子どもでも、「教科書もパソコンもそない言うてんやから、やっぱこれは比例やで」と納得してくれるでしょ。



児童の声
おもしろかった。これなら算数が好きになる。
こうゆう授業ならわかりやすくていい。
勉強が自分のペースで早く進むので楽しい。
楽しいので毎回パソコンを使った授業をしてほしい。
もう20台パソコンが欲しい。
ノートをとるだけより、わかりやすくていい。
点を打って直線を引くのが面倒くさかった。自動で線が引けたら楽だったのに。
算数はきらいだけど、パソコンを触るのは遊びみたいで楽しい。
こんな授業なら教科書なんていらない。

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