Multi Book授業実践レポート

教室にマルチブックがやってきた

校舎

東京都新宿区立戸塚第三小学校

全校児童205人、8学級の小規模校。平成8年1月にコンピュータ教室が整備され、パソコン20台と、プリンタ5台が導入された。平成9年度からは校内研究として、コンピュータの活用に取り組んでいる。現在、授業や特別活動に積極的にコンピュータが取り入れられている。


    「小学校4年生算数」

    〜どこが似ているのかな?

      自分たちが描いた四角形を仲間分けする〜


使用した教材:マルチブック 小学校5年生算数・四角形の性質 『にてるけど、ちょっとちがう』 <1997年取材>

授業風景 四角形って何だっけ?

    「今日は、まずこのことを思い出してください」
    そう言いながら、先生はホワイトボードに「四角形」と書いた。
    「四角形って何だったけ?」
    「4つ角がある形」
    男の子が答えた。先生は定規を使って、ホワイトボードにていねいに図を描く。
    「ほかに付け足すことあるかな」
    「辺が4つ」
    「そうだね。では、2年生で四角形の中でも特別な四角形について勉強したけど、覚えているかな」
    「正方形と長方形」
    女の子が答えた。
    「どんな形って言えばいいんだっけ? じゃあ、正方形から」
    「すべての角が直角で、辺の長さが同じ」
    先生は、再びホワイトボードに正方形を正しく作図した。

    「それじゃあ、長方形は?」
    子どもたちから次々と答えが返ってくる。
    「4つの角が90度」
    「2つの辺の長さが同じ」
    「先生。2つの辺の長さが同じって言うと、横と縦の、隣り合う辺の長さが同じということにもなっちゃうよ」
    「向かい合う辺にしたほうがいい」
    ここで先生がもう一度質問した。
    「向かい合う辺の長さが同じって言わないと、長方形は描けないのかなあ」
    「できると思う」
    何人かの子どもが答えた。
    「4つの角が90度、と言えば描けそうだね」
    ホワイトボードを指しながら、先生が続けた。
    「このほかにも、もっといろいろな四角形があるんだ。今日は、正方形や長方形以外にも、いろいな四角形をパソコンで描いてみようと思います。では、パソコンの電源を入れてください」
    ここは、東京都新宿区にある戸塚第三小学校。4年1組の算数「四角形」の単元は、こんな復習から始まった。

いったい何が始まるのだろう

    先生は、先生用のパソコンで『にてるけど、ちょっとちがう』の画面を開き、その画面を子どもたちのパソコン画面に転送した。 このコンピュータ教室では、すべてのパソコンがネットワークでつながっており、先生用のパソコン画面と子ども用のパソコン画面をお互いに転送できるようにもなっている。パソコンはほぼ1人に1台。児童数22名という少人数クラスがそれを可能にしている。
    ここで先生は、1〜5ページをとばして、いきなり6ページ目を開いた。『にてるけど、ちょっとちがう』というソフトは、1、2ページ目で正方形と長方形を学習し、その後順次、台形、平行四辺形、ひし形と進んでいくことを想定して作られている。これは、教科書の順番に沿ったものともいえる。しかし、先生はいきなり6ページを開いたのだ。いったい、何をさせようとしているのだろうか?
    6ページ目を開くと、画面にはあらかじめ正方形が表示されている。先生は正方形の右上の頂点をクリックしてみせた。
    「頂点のどれかをクリックすると、その点がくなりますね。そこをそのままドラッグすると、このように形が変わります」
    ドラッグされた頂点が右上に移動して、正方形が変形する。子どもたちからは「あっ」という驚きとともに笑いが起こった。

自由自在に四角形を描いていく

    先生の説明が終わると、子どもたちは、さっそく6ページ目を開き、自由に正方形の頂点を動かし始めた。
    1つの頂点だけにこだわり、その点だけを動かしていく子ども。
    4つの頂点を順番に動かしていく子ども。
    左右対称にこだわった四角形を作る子ども。
    やけに細長い四角形を作っておもしろがっている子ども。
    とにかく大きな四角形を描こうとする子ども。
    説明にはなかったが、辺もドラッグできることを見つけて、平行四辺形に変形させてみる子ども。
    正方形の1つの頂点を動かすと、図形が変形する。単純なことだが、それを紙の上で表現しようとするとなかなか難しい。まして頂点を自由自在に動かすことなど、とうていできることではない。しかし、パソコンではそれができるのだ。子どもたちは思う存分、変形させることを楽しんでいるようだった。
    「気に入ったのができたら、プリンタで印刷してください。何枚でもいいよ」
    先生から指示があると、子どもたちはさっそく自分の作品を印刷し始めた。

どれとどれが似てるかな

    「印刷できた人は、自分の名前を書いて前に持ってきてください」
    折を見て先生が言った。子どもたちは印刷した自分の作品を満足そうに眺めている。長方形をちょっと変形したような四角形、縦長な平行四辺形、台形のような四角形…と、実にさまざまな四角形があるものだ。
    先生はそれをひとつずつ、ホワイトボードに貼っていった。そして、全員の描いた四角形を貼り終えると、
    「みんなが作ってくれたいろいろな四角形をここに貼りました。似ているものもあるし、ちょっと違うなというものもあると思います。まずは、前に出てきて、よーく見てください」
    子どもたちは、嬉しそうにホワイトボードの前に集まり、自分たちが描いた四角形を眺めながらつぶやいている。
    「これ、仲間はずれだ」
    「これは似てる」
    「ちょっと違うなあ」
    席に戻った子どもたちに、先生が質問した。
    「みんな、なんで似てるって思ったんだろうね。なんで違うって思ったんだろうね。そこを考えながら見ていきましょう」
    先生は色のついた模造紙を取り出した。どうやらそれに仲間分けするようだ。
    「同じ形に見えるなあという四角形で、一番数が多いのはどれかな」
    まずは、台形の仲間がピンク色の模造紙に貼られていった。
    「次はどれが多いかな」
    平行四辺形の仲間が青色の模造紙に貼られた。
    「まだあるかな」
    2つの直角をもつ台形の仲間が黄色の模造紙に貼られた。
    最後に、いろいろな形の不等辺四角形が、緑色の模造紙に貼られた。
    それでもなお、仲間はずれになっている四角形がある。先生はそれをひとつずつ
    「どこかの仲間に入れることはできないかな」
    と子どもたちに尋ねる。子どもたちからは
    「青だ」
    「いやピンクだ」
    「全然似ていない」
    「似てるけどちょっと違う」
    といった答えが、その都度返ってくる。こうして、いろいろな四角形は4種類に仲間分けされた。

どれから学習していこうかな

    4枚の模造紙を見ながら、先生が質問した。
    「みんなは、何を手がかりにして似てるって言ったのかなあ」
    「黄色は直角が2つある」
    「ピンクは1組の辺が平行になっている」
    子どもたちが答えた。
    「そうだね。平行や垂直で調べていくと、何かわかるかもしれないね。最終的には全部調べるんだけど、どれからやっていこうか」
    何と、先生は子どもたちに学習する順番を決めさせるつもりのようだ。男の子が答える。
    「青がいい。垂直とか平行とかを勉強したから、何かわかるかもしれない」
    「緑。角を調べてみたい」
    と、別の男の子。まだまだ子どもたちの発言が続く。
    「黄色。直角があるからやりやすい。正方形や長方形に近いから」
    「そうか、簡単なものから難しいものという順にやっていった方がやりやすいってことか。それじゃあ、どれが一番簡単かなあ」
    子どもたちはいろいろと迷っているようだ。残り時間も少なくなってきた。そこで、先生は多数決をとることにした。
    そしてその結果、なんと緑色、つまり「いろいろな四角形」からやることになった。
    「それじゃあ、最初はいろいろな形の四角形から勉強することにしよう」
    ちょうどチャイムが鳴って、先生が「次回からは人数の多かった順に勉強していく」ことを子どもたちに確かめ、これで授業が終わるかと思ったそのとき、ひとりの男の子が手を上げた。
    「いま順番を全部決めとかないで、ひとつやってから次を決めた方がいい。その方がつながりが見えると思うから」
    実に鋭い指摘だ。そこで先生は、
    「まず、いろいろな形の四角形を勉強してみて、何かわかるかもしれないから、そしたら次に勉強するものを決める。そのあとも同じようにして決めていく、という今の意見をどう思いますか」
    と子どもたちに尋ねる。と、これに対しても、次々と反対意見や賛成意見が上がる。すでに、授業時間も過ぎており、再び多数決をとることになった。
    結局、いろんな形の四角形を調べてから、次に勉強するものを決める、という結果になった。全員一致とまではいかなかったが、子どもたちは自分たちが決めた結論に納得している様子だ。
    いきなり、先生が黒板に台形を描いて「さあ、今日はこの四角形を勉強してみよう」という形の授業もある。しかし、このクラスの子どもたちは、自分たちが作り、自分たちがやってみたいと思うものから、自分たちの意志で勉強していくのだ。それはまさしく「子どもが主体的に取り組む授業」と言えるのではないだろうか。

授 業 を 終 え て

畔柳先生
(くろやなぎ)

畔柳 信之教諭へのインタビュー

教職暦7年。子どもが主体的に取り組む授業をいつも意識しているという畔柳先生。子どもたち自らが作る授業展開をしたいと常に考えている。授業では、4年前からパソコンを使い始めたという。パソコンは、先生がめざす授業を実現するための手段であり、道具でもある。

Q1 今日の授業は、なかなかおもしろいアプローチでしたね。

A1 授業では、常に子どもの主体性を大切にしたいと考えています。この授業に限らず、例えば、小数の単元なんですが、子どもたちが小数という数の表し方があることを知った後に、「この数でやってみたいこと」を聞いたところ、整数で足し算・引き算ができたんだから小数でもできるんじゃないかということになったんです。じゃあ、小数で足し算しなくちゃいけない場面ってどんなことだろう…、引き算はできるのか…と、子どもたち自らが学習の計画を立てて学習を進めていったのです。
今回の四角形の単元でも、教科書の順番に台形、平行四辺形とやっていく方が、ある意味では楽かもしれません。でも、教師が長方形の紙を切らせて、切ると台形になるから「それを調べましょう」というよりは、何について学習していくのか、子どもたち自身に考えさせ、決めさせたかったんです。

Q2 その結果、教科書とは全く違う順番になってしまいましたが。

A2 そうですね。最初に、統一感のない「いろいろな四角形」を調べなくちゃいけないから、次の時間はちょっと時間がかかりそうですね(笑)。いきなり、対角線をここでやってしまうのかなあ。でも、はじめに対角線を扱い、角の見方が方法として身につけば、図形を調べることに慣れるので、あとはどの四角形にいこうが、かえってスムーズにやれるような気がします。
順番が入れ替わることで、ひとつの授業が終わるたびに、さて次はどうしようかなって考えなくちゃいけないですね(笑)。でも、教師はそれに柔軟に対応していかなければならないし、それなりのメリットもあると思います。

Q3 このあとの授業展開がとても楽しみですね。

A3 途中の展開はまだどうなるかわからないけど、最後のまとめでもう一度、このソフトを使いたいと思っています。子どもたちが描いたいろいろな四角形が、ちょっと頂点をずらすことで、平行四辺形なり、ひし形になることを確かめさせたいんです。ひし形が平行四辺形の特別な形であるというつながりが、子どもたちにはなかなかわかりにくいんですね。全く別の形だと思ってしまう。でも、パソコンだったら、そのあたりを自分で確かめられるし、画面が転送できるので、子どもたちに自分の画面を写しながらいろいろ発表させたいと思っています。


児童の声
みんながビックリするような、変な形の四角形を作ろうと思った。
できるだけ大きな四角形を描こうと思った。
ロケットの形を作ってみようと思った。ほら、これ、かっこいいでしょ。
左右対称な四角形を作ってみた。
適当にやってたら、あんな形になっちゃった。
紙だと間違えたら消さなくちゃいけないし、まっすぐな線が描けないけど、パソコンだと簡単にできて楽しかった。
マウスと体が連結して画面の四角形を動かしているようで楽しかった。
自分でいろいろやれたのが楽しかった。先生の話を聞くだけの授業じゃつまらないから。
自分が作った四角形を勉強するのが楽しみ。
いろんな四角形を描いてそれを調べるんだなということは何となくわかっていたけど、あんなふうに仲間分けできるとは思わなかった。

その後の展開(次頁)

実践校紹介へホームへ